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 自賠責保険では、複数の後遺障害が残存する場合、最終的に1つの等級を定める必要があり、そのために「併合」という取扱いがなされます。

 下記では、併合に関するルールと基本的な例をまとめています。

目 次

1.併合の基本ルール

(1)別表第二5級以上の後遺障害が2つ以上残存する場合
(2)別表第二8級以上の後遺障害が2つ以上残存する場合
(3)別表第二13級以上の後遺障害が2つ以上残存する場合
(4)上記(1)〜(3)以外の場合
(5)同一系列内に複数の障害が残った場合

2.併合ルールの例外

(1)1つの障害を複数の観点で評価しているに過ぎないと判断される場合
(2)1つの後遺障害に他の後遺障害が通常派生する関係にある場合
(3)組み合わせ等級が定められている場合
(4)併合の結果、障害の序列を乱す場合
(5)総合評価を行う場合

3.留意点

 

1.併合の基本ルール

(1)別表第二5級以上の後遺障害が2つ以上残存する場合 

   ⇒ 重い方の等級を3つ繰り上げる

(例)高次脳機能障害(5級2号)と右下肢を足関節以上で失った(5級5号)場合

   ⇒併合2級(5級を3つ繰り上げる)

(2)別表第二8級以上の後遺障害が2つ以上残存する場合

   ⇒ 重い方の等級を2つ繰り上げる

(例)右上肢を手関節以上で失い(5級4号)、左手関節可動域制限(8級6号)が残った場合

   ⇒併合3級(5級を2つ繰り上げる)

(例)頸髄損傷による麻痺(7級4号)と右上肢に偽関節(8級8号)が残った場合

   ⇒併合5級(7級を2つ繰り上げる)

(3)別表第二13級以上の後遺障害が2つ以上残存する場合

   ⇒ 重い方の等級を1つ繰り上げる

(例)頸髄損傷による麻痺(9級10号)と右膝関節可動域制限(12級7号)が残った場合

   ⇒併合8級(9級を1つ繰り上げる)

(例)右手首可動域制限(12級7号)と右肘関節可動域制限(12級6号)が残った場合

   ⇒併合11級(12級を1つ繰り上げる

(4)上記(1)〜(3)以外の場合 

   ⇒ 最も重い等級を採用する

(例)頚部神経症状(12級13号)と腰部神経症状(14級9号)が残った場合

   ⇒併合12級(重い方の12級を採用)

(例)頚部神経症状(14級9号)、腰部神経症状(14級9号)と右肩関節痛(14級9号)が残った場合

   ⇒併合14級

(5)同一系列内に複数の障害が残った場合

   ⇒併合の方法を用いて一つの等級を定める(相当)

 併合は上記のとおり、系列の異なる複数の後遺障害が残った場合に適用されますが、同一の系列内に複数の後遺障害が残った場合には、併合の方法を用いて一つの等級を定めます(「相当」といいます)。さらに他の系列にも後遺障害が残っている場合には、併合をします。

 

 なお、下記の障害が同一部位に残った場合には、系列は異なりますが、同一の系列とみなした取扱いがなされます。

①両眼球の視力障害、調節機能障害、運動障害、視野障害の各相互間 

②同一上肢の機能障害と手指の欠損又は機能障害 

③同一下肢の機能障害と足指の欠損又は機能障害

(例)頸髄損傷による神経症状(12級13号)、右膝関節可動域制限(12級7号)、右足関節可動域制限(12級7号)が残った場合

   ⇒併合10級

 上記の併合ルール(3)を適用すると12級を1つ繰り上げて併合11級となりますが、同じ右下肢に複数の機能障害があるため、右膝関節可動域制限12級7号と右足関節可動域制限12級7号を併合の方法を用いて11級相当とし、その後で頸髄損傷12級と併合し重い方の11級を1つ繰り上げて併合10級とします。

 

2.併合ルールの例外

 系列の異なる複数の後遺障害が残った場合でも、上記の併合ルールを適用しない例外的なケースとして、下記が挙げられます。

(1)1つの障害を複数の観点で評価しているに過ぎないと判断される場合

   ⇒上位の等級を認定する

(例)大腿骨に変形を残した(12級8号)結果、同一下肢を1cm短縮した(13級8号)場合 

   ⇒上位等級である12級8号認定

(2)1つの後遺障害に他の後遺障害が通常派生する関係にある場合

  ⇒上位の等級を認定する

(例)1上肢に偽関節を残す(8級8号)とともに当該箇所に頑固な神経症状を残した(12級13号)場合

   ⇒上位等級である8級8号認定 

(3)組み合わせ等級が定められている場合

  ⇒後遺障害等級表に定めれた等級を認定する

 複数の後遺障害が残った場合でも、後遺障害等級表に組み合わせ等級として定められている場合には、併合を行わず、後遺障害等級表に定められた等級を認定します。

(例)右下肢を膝関節以上で失い(4級5号)、左下肢を膝関節で失った(4級5号)場合

   ⇒「両下肢をひざ関節以上で失ったもの」として1級5号認定

 (4)併合の結果、障害の序列を乱す場合

   ⇒序列の調整を行う

 複数の後遺障害が残り、上記1の併合ルールにしたがって併合した結果、障害の序列を乱す場合があります。このような場合には、併合した等級をそのまま採用せず、等級の調整(修正)が行われます。

(例)右上肢を手関節以上で失い(5級4号)、左上肢を肘関節以上で失った(4級4号)場合

   ⇒併合2級認定

 5級以上の後遺障害が複数ありますので、上記1の併合ルール(1)を適用すると、重い方の等級4級を3つ繰り上げて併合1級になるところです。しかし、これらの障害の程度は、「両上肢をひじ関節以上で失ったもの」(1級3号)と比べると、その程度には達していませんので、1等級軽い併合2級に修正されて認定されます。

 

(例)右手の「中指の用を廃し」(12級10号)、かつ「小指を失った」(第12級9号)場合

   ⇒10級相当認定

 同一系列に属する13級以上の後遺障害が複数ありますので、併合の方法(上記1の併合ルール(5)と(3))を用いて11級相当になるところです。しかし、これらの障害の程度は、「1手のおや指以外の2の手指の用を廃したもの」(10級7号)より重く、「1手のおや指以外の2の手指を失ったもの」(9級12号)より軽いので、10級相当と認定されます。

 

 労災保険の認定基準では、原則として欠損の障害を労働能力の完全な喪失と捉えて同一部位の機能障害よりも重く評価しています。このため、同一の上肢(下肢)・手指(足指)に複数の欠損・機能障害が残った場合には、併合することで序列が乱れ等級が調整される可能性が出てきますので、注意が必要です。

 

(5)総合評価を行う場合

 9級以上の等級が認定される中枢神経系の障害(高次脳機能障害または脊髄損傷による神経症状)とともに、末梢神経による障害も残った場合

 ⇒末梢神経による障害を含めて総合的に障害程度を評価する

(例)高次脳機能障害9級10号、頚部神経症状14級9号、腰部神経症状14級9号に相当する障害が残った場合

  ⇒神経症状を総合的に評価して9級10号認定(併合9級とはしない)

 ②脳外傷により高次脳機能障害と麻痺等の身体性機能障害が残った場合

 ⇒総合的に障害程度を評価する

(例)高次脳機能障害9級10号、右上肢の軽度の単麻痺9級10号に相当する障害が残った場合

   ⇒神経症状を総合的に評価して7級4号認定(併合8級とはしない)

 ③脊髄損傷に伴う胸腹部臓器の障害や脊柱の障害による障害等級が麻痺により判断される障害の等級よりも重い場合

 ⇒総合的に障害程度を評価する

(例)脊髄損傷による麻痺9級10号、脊柱の運動障害8級2号に相当する障害が残った場合

   ⇒2つの障害を総合的に評価して7級4号認定(併合7級とはしない)

 

3.留意点

 後遺障害が複数残ったときには、基本的には上記の「併合」の取り扱いにより、最終的に1つの等級にされます。ただ、同一上肢(下肢)の機能障害と指の欠損又は機能障害が残ったような場合には、併合等の処理がやや複雑になります。また、脳や脊髄の障害の場合には、末梢神経の障害も含めて総合評価がなされますが、総合評価は適切な等級認定が必ずしも容易ではなく、異議申立で等級が変更されることも珍しくありません。このため、複数の後遺障害が残ったときは特に注意が必要になります。

(令和5年11月7日更新)

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